社会的イノベーションとしての Wiki :ジミー・ウェールズとのインタビュー

2009年 3 月 23日

odbms_logo_small3解題:ここに訳出したのは、ODBMS.ORGのニューズレター風ブログ、ODBMS Industry Watch, 2009年2月号に掲載されたWikipedia 財団名誉理事長のジミー・ウェールズとのインタビューの全文である。技術的な内容は皆無だが、誰もが日常的に使っている Wikipedia を支える「社会的イノベーション」というコンセプトは、結論に導くコミュニティプロセスとインタフェースに基づいており、(社会)工学的でもある。「集合的知恵」は多くのステークホルダーが関るプロジェクトでは成功の鍵を握るものであり、最大のオンライン百科事典を構築した Wiki の経験は貴重であると思う。(鎌田)

「私がしたことが技術的なイノベーションだとは思いません。ただ社会的なイノベーションだとは考えています。」(Jimmy Wales)

2009年 2月24日火曜日、マルコ・デットワイラー (Marko Dettweiler)とロベルト・ジカーリは、ジミー・ウェールズとのインタビューを行った。

“ジンボ (Jimbo)”ウェールズことジミー・ドーナル・ウェールズ、(1966年8月7日生まれ)は、ウィキア (Wikia Inc.)の社長。Wikimedia Foundation の理事兼名誉会長。Wikipedia を世界最大の百科事典に育て、『タイム』誌の、2006年「世界で最も影響力のある一人」に選ばれた。

Q. ウェールズさん。あなたの新しいプロジェクトの一つ、Wikia について話して下さい。

私たちは、ライブラリの残りの部分を構築しています。Wikiモデルを、非営利の教育・研究コミュニティという枠を超えて、ユーモアや政治的活動、その他種々雑多なものを含むように拡大しているのです。

Q. Wikia とWikipedia はどう違うのですか?

それが図書館の残りの部分と呼んでいるものです。Encyclopedia に属さないすべて。例えば、Uncyclopedia はユーモア・サイトで、Wikipedia のパロディです。真面目なものではなく、すべてジョークでちりばめられている。
別の例をあげましょう。Wikia Green のようなサイトもあります。これはサステイナブル(持続可能)な生活だけをテーマにしたもので、中立的ではありません。世界の将来に関して特定の見方を提唱しています。
Wikianswers は、人々が質問を投げると、いろいろな質問に対してすぐに簡潔な答えが得られるもので、Q&A形式の Encyclopedia Oracle とは違います。Encyclopedia とは違うことばかりです。

Q. Wikia の Wikia Search という新しいサービスがありますが、Googleなどの従来の検索エンジンとはどこが違うのですか?

大きな違いは、私がここで編集管理をコミュニティに渡してしまおうとしているという点です。すべての検索エンジンには、編集コンポネントがあります。検索語をタイプで打ちこむと、その検索語に関連して探したほうがいい情報を出してくれるわけですが、その内容はほとんどの検索エンジンで、ごく内々にコントロールしてあるのです。私の考えは、そうしたことは、まず公衆の対話と討論、論争に委ね、コミュニティが決定できるようにしてみようというものです。

Q. Wikia Search はWikipediaと関係していますか?

まったく独立したサーチ・プロジェクトと言っていいと思います。特定のサイトではなく、Web全体を検索するものですから、Wikipediaとは無関係です。

Q. Wikianswers ですが、これは例えば Yahoo! Answers とどう違うのでしょうか?

大きな違いが2点あります。一つはWiki。つまり誰でも同じことについて協働できるもので、個々人が別々の答を出すものではありません。ですから、コミュニティが出したものを改善する作業に参加できるのです。
もう一つは、私たちがやろうとしていることはすべてFree License (オープンソース・ライセンス) で行われるもので、コミュニティが実際には管理権を持たず、成果を他のサイトで使いたくてもできない排他的なライセンスを採用する他のアンサーサイトとは違うものです。

Q. 質の高い答えを得られる保証はありますか?

多くのアンサーサイトで、かなり問題の多い答えが山のようにありますし、矛盾する答えが並んでいることもあります。答えがどうなるかはコミュニティが管理するのがいい、というのが私たちの発想で、誰かが悪い答えを出しても、コミュニティには消すことができるのです。

Q. あなたがやっていることは、ソフトウェア産業でオープンソース運動がしていることと同じだとお考えですか?

Q. はい。目ざすところは同じです。私がやっていることは、フリーライセンシングという発想に基づいており、まさにそれがオープンソース・ソフトウェアやフリー・ソフトウェアに力を与えています。私たちの仕事は、すべてGNUフリー・ドキュメンテーション・ライセンスで提供されます。理由は、こうすると確実に非常に込み入った問題が一気に解決して、多くの時間を割くことになるかもしれないことを、ユーザーが気にせずよくなるからです。ですから、凄くよく似ています。フリーソフトウェアのユーザーは、複写、修正とその配布を商業的にも非商業的にも行うことができますが、これと同じ考え方に立っています。私たちは、皆さんが私たちのサービスのどれかを使い、必要なら再利用してやりたいことをやっていただきたいと願っています。

Q. 情報の著作権は問題になりますか?

いえ、それほど大きな問題にはなりません。もちろん、不注意だったり著作権法を理解しないで不適切なコピーをしてしまう人もいます。しかし、全体から見るとかなり小さな問題です。それはソフトウェアの場合と大差ありません。

Q. あなたの仕事はセマンティックWebと関係していますか?

ほとんど関係はありません。わたしはその発想に少し懐疑的です。最終的にはほんのちょっとセマンティックWebの方向に進んでいくだろうとは思いますが。セマンティックWebについて抱いている夢が実現するのは、まだまだ先の話だ考えています。

Q. Wikiaは営利企業ですが、無償の情報からどうやって収益を得ているのですか?

広告のサポートでやっています。サイトにいくらかGoogle の広告を置いていますが。基本的にはそれです。Webサイトではとても単純で標準的なモデルでしょう。

Q. どんな時に Wikia を使い、どんな時に Wikipediaを使うことになるのでしょう?

2つはまったく違うものですから、使う理由もまったく違います。ですから比較できるものでもありません。これは図書館に似ていますから、私は何度でもそのメタファーを使いたくなります。皆さんが図書館に行くと、時には百科事典を探したり、時に政治的なものを探したり、ユーモア本やや年鑑類を探したりすることもあるでしょう。
これが、違う理由です。
例えば、Uncyclopedia に行くと、そこでは Wikipedia とはまるで違ったことが出ています。読んで笑いだしたり、愉快になったりする。でも、しっかりした情報が欲しいなら、Wikipedia に行こうと思うはずです。

Q. Wikia のサービスに対して、これまでのコミュニティからはどんな反応がありましたか?

非常に好意的なものでした。多くのユーザーが、Wikia の空間を楽しんで、いくらかの時間を使って何かを作っています。他方でやっぱり Wikipedia のほうがいいという方もいます。人それぞれ、興味のあるものによるわけです。

Q. あなたは Wikipedia に“Flagged Revision”(フラグ付改訂)というシステムを導入しようと検討されていますが、それは Wikipedia をどんな風に変えるでしょうか?

現在、フラグ付改訂方式はドイツ語の Wikipedia ではかなり普及していてとてもうまくいっています。Uサーチについての統計を慎重に読んで、そうしたことの採択までにどのくらいの時間がかかるかをみています。まだ学習中です。
私には便利なツールに思えます。なんらかのフォーマルな フラグ付改訂は1、2ヵ月以内に英語版に導入する予定です。でも、まだどうやるか、どうするのが正しいアプローチなのかを議論している段階です。

Q. 最近Wikipedia は、ある(例えばドイツの)個人との紛争を経験しましたが、「誤った事実」と推定される情報を理由に訴訟を起こすことについてどう思われますか。これはWikipedia の将来にはさらに一般的になると思いますか?

それほど増えるとは考えていません。この事例では、政治家は訴訟によって却って気まずいことになり、結局は謝罪して決着しました。Wikipediaの前途にとって大きな問題となるとは思いません。

Q. Wikipedia は現在(高校と大学の)学生にも使われていますが、Wikipediaからの引用は多くの教授が許可していません。これは将来変わると思いますか? もし変わるならどんな風に。

研究プロセス全体の中で百科事典のあるべき役割が何かを考えることが重要だと思います。一般的に言って、百科事典は、学術論文の情報源として引用されるのに相応しいものとは考えられていません。
本来そうしたものとして作られてはいないからです。皆さんは非常に高品質なものを期待しますが、たとえそれが高品質だったとしても、それは基本的に資料の解説にすぎないのです。背景的事実を教えてくれるもので、オリジナルな研究ではなく、学術雑誌でもありません。
大学の学生が Wikipedia をどう使うべきかということですが、これは現実的に考える必要があると思います。彼らは四六時中、まるごとこれを使っています。だから、いくつかの点をよく考えてみる必要があります。第1に、百科事典の正しい使い方について彼らがちゃんと教育を受けているかどうかを知ること、第2に、Wikipedia を可能な限りよいものとするにはどうするかを考えること。実際これは多くの人にとって重要なものとなっているわけですから。

Q. 中国など、いくつかの国では、インターネットにかなり厳重な検閲を行っています。Wikipediaのように、表現の自由が問題になるコンテンツのリポジトリにとってチャンスはありますか?

中国では、Wikipedia は3年間、完全に禁止されていました。現在は利用できます。私たちは、正確な情報へのアクセスは基本的人権の一部であると考えていますから、検閲には妥協しません。全体的な傾向としては、中国に限らず多くの国で、インターネットに関してはオープン化の方向に向かっていると思います。インターネットの世界で完全な検閲など不可能なことです。なんらかの衝撃を与えて人を脅かすことはできますが、情報の流れを断ち切ることはますます難しくなっている。世界の多くの国では、これまでのようなやり方で情報の流れを政策的にコントロールしようとするには、有り難いツールではないと理解し始めていると思います。ですから、私はかなり楽観的ですが、世界中にはまだ多くの問題があって、簡単に検閲を終わらせることはできないでしょう。ただ、正しい方向に向かって進んでいるとは思います。

Q. どんな種類のイノベーションを使われたのですか?

いまは多くの新しいことが次々と出てくる時代です。私がしたことが技術的なイノベーションだとは思いません。ただ社会的なイノベーションだとは考えています。私がやってきたことのほとんど全部に関係しているテクノロジーは、すでにこの世にある、出来合いのものでした。ハイレベルでのイノベーションは志向していません。とはいえ、いくらかはそうしたところもありますが。基本的に、私たちの仕事は、ソーシャルイノベーションです。人々がオンラインのソーシャルコミュニティに参加して協力していく作法を発見し、健全で創造的なコミュニティを築く上で役立つ社会的なルールや規範を発見していくことなのです。 (END)

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