ヴィントン・サーフ「インターネットの課題」を語る

2009年 8 月 1日

ODBMS.ORGのニューズレター風ブログ、ODBMS Industry Watch, 2009年7月27日号に掲載された、ヴィントン・サーフとのインタビューを訳出した。2005年以来、GoogleのエヴァンジェリストとしてWebが社会に与える影響や技術的課題について予言、提言などを行っているが、透徹したビジョン、該博な知識、わかりやすい語り口は、インターネットの創始者の一人としての圧倒的な業績に裏づけられたもので、政府の政策、企業の技術戦略にも大きな影響を与えている。 ここでは、IPv6の重要性、次世代インターネット技術の課題、不正利用への対応、著作権問題などについて語っている。インタビューは、ODBMS.ORGのジカーリ教授とフランクフルター・アルゲマイネ紙オンライン版のマルコ・デットワイラー記者。  (訳:鎌田)

vcerfヴィントン・G・サーフは、Google社の副社長兼チーフ・インターネットエヴァンジェリストである。「インターネットの父」の一人として知られるサーフは、TCP/IPプロトコルやインターネット・アーキテクチャの共同設計者でもある。1997年12月、クリントン米国大統領は、合衆国テクノロジー勲章 (U.S. National Medal of Technology) をサーフと彼のパートナー、ロバート・E・カーンに贈呈し、インターネットの構築と開発の偉業を称えた。2005年11月、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、インターネットの創造への貢献に対して大統領自由勲章 (Presidential Medal of Freedom) を両氏に授与した。サーフはオバマ大統領の最高技術責任者 (CTO) 指名の有力候補でもあった。

質問:マルコ・デットワイラー (FAZ.NET)、ロベルト・V・ジカーリ (ODBMS.ORG)

Q1. インターネットの将来について

サーフさん、インターネットは1970年代に創造され、その後 90年代初めに生まれたWorld Wide Web の基盤となっています。Webの登場は、インターネットの使われ方を劇的に変え、同時にインターネットをあらゆる種類の商業的・社会的用途に対して開放しました。かつては不可能であったことです。

-なぜインターネットの発明にそれほどの時間がかかったのでしょう?

V.C.:1960年代後半から1970年代初頭にかけて、ダグラス・エンゲルバートが SRIインターナショナルで開発を主導した oNLine System (NLS) を考えてみる必要があります。このシステムは1台の計算機で稼働するものでしたが、ARPANET と、その後はインターネットからアクセスできました。これはハイパーテキストとマウスによるポイント/クリック(ともにエンゲルバートの発明)を採用していました。これはARPANET コミュニティで人気のあるシステムであったわけです。これとは別に、ミネソタ大学で開発した Gopher や、Wide Area Information Servers (WAIS)、ARCHIE、VERONICAなど、様々なシステムが開発されましたが、ほとんどはテキストベースでした。ティム・バーナーズ-リーが1989年頃、CERNにおいて WWW のアイデアを発展させましたが、大爆発が起きたのはマーク・アンドリーセンMosaic というグラフィカルなインタフェースを持ったWWWブラウザを実装してからです。彼はさらにネットスケープ・コミュニケーションズ社を創業して Netscape Navigator を世に出しました。これらの発明はいくつかの点で、強力なデスクトップ/ラップトップ・コンピュータが入手可能となりインターネット接続の帯域が、ダイヤルアップ接続の遅さを克服するまで待つ必要がありました。そもそも、一般公衆がインターネットを目の当たりにするようになったのは、だいたい1994年にネットスケープ社がデビューしてからのことです。往々にして、ものごとは十分に条件が熟してはじめて起こるものです。

-Webの強味と弱点はどこでしょうか?

V.C.:おそらく、最大の強味は柔軟性と高度な分散性でしょう。
コンテンツは誰でも、事実上何語ででもつくれて、世界中で共有することができます。それ以外では聞かれるはずがなかった声を集めた大通りができたわけです。また、ソフトウェアがサーバからクライアントに移動し、クライアントの機能変更(Java/JavaScript などを使って)ができる劇的な方法を発展させました。もちろん、あらゆる種類のメディア(テキスト、音声、画像、動画)を組合わせて綴れ織りのように豊かなコンテンツをつくることもできます。その反面、ウィルスワームトロイの木馬などの攻撃にさらされやすい。他人を詐欺や虚報、ストーカー行為、中傷、ネットいじめで攻撃するために使うこともできてしまう。膨大な膨大な情報がありますが、関心のある情報への道筋をつけてくれる検索エンジンやハイパーリンクがなければ、ナビゲーションは不可能です。計算機の能力を盗んだり、マシンを“ボットネット”の大群に変える“ゾンビーズ”など有害なソフトウェア(バッドウェアマルウェア)に対して、ブラウザやサーバのセキュリティはもっと強化する必要があります。マルウェアの中には、マシンに感染して口座番号やパスワードその他の個人情報を盗み出して開示したり悪用したりするものもあります。

-Web/インターネットにとって、次の進化/革命はどのようなものとなるでしょうか?

V.C.:それはすでに起きています。モバイル通信はWeb/インターネットにとってますます重要な部分を占めるようになっています。これは有害物質を探知するセンサと結びついたり、日常生活での移動の中で健康に有害な場所にいたかどうかを警告してくれるといったものです。様々な機器がインターネット接続機能を持ち、インターネットを通じて制御できるようになるでしょう。私たちはこうした機能を使って、娯楽システムの管理やエネルギー消費の制御を行い、家庭やオフィスビルの効率や安全性を高めることができます。自動車に様々な機器を装備し、データを採ってオペレーションを最適化することができますし、Webをさらに有効に駆使して、あらゆるメディアデータを使ってリアルタイムに協調させることもできるでしょう。私たちは別々の言語を話していても、グループで共同作業ができるようコミュニケーション能力を拡張することができるようになるでしょう。もちろん私は、インターネットによる通信の運用をさらに太陽系にまで拡張する可能性に、大いに関心を持っています。プロトコルを新たなセットで補い、惑星間通信による遅延や中断も克服できるようにすれば可能です。こうしたイノベーションは、ロボットや有人による太陽系探査を拡大するのに役立つでしょう。

-将来、何が最も重要な課題となると思われますか?

V.C.:セキュリティ、プライバシー、ユーザーとシステムの認証などでしょう。デジタル情報とその変換に必要なソフトウェアの保存もそうです。ユーザーと終端装置、デバイスが増加し、ますます大規模化するインターネットのオペレーション、そしてモバイルコンポネントが増加する中でのインターネットのオペレーションも考えなければなりません。

Q2. インターネットのリソースは無限ではない。

これからの数年間、IPアドレスの問題に直面する可能性が強いとみられています。あなたは2011年までに、すべてのIPアドレスは枯渇すると予言されました。新しいIPアドレスが供給されないと、Webには新しいユーザーを受け容れられなくなってしまいます。現在のコンセンサスでは、128ビットの IPv6 に移行する必要があるということですが。

-IPv6への早急な移行の必要性に同意されますか?

V.C.:はい、これは絶対的なものです。

-そうだとして、業界はいつまでに対応する必要があるでしょうか。

V.C.:IPv6 の実装を、IPv4 と並行して進める必要があります。Googleのような会社は、IPv6 アドレスしか持っていないユーザーでも、IPv4 アドレスのユーザーと同様にスムーズにサービスに到達できるように、両方のプロトコルに対応するサービスを実装する必要があります。ISP事業者は、IPv6 対応のサービスをすぐに実装・提供し、IPv4 で相互接続する場合と比べて純度、密度で遜色ない相互接続を実現する IPv6 サービスの提供できるよう着手すべきです。

-Webを使うユーザーや企業になんらかの影響はあるでしょうか?

V.C.:はい。もし私たちが IPv6 の採用を大々的に進めなければ、インターネットは相互接続できない IPv4 と IPv6 の島に分裂してしまうでしょう。

-将来はどちらのほうになるでしょう? どのような問題を予測していますか?

V.C.:私の考えでは、インターネットの将来は、ますますセキュリティと復旧力が重要になっていくと思います。モバイル化、IPv6 の実装、ドメイン名への非ラテン系文字の導入、それに単純に巨大化したインターネットのオペレーションへの対応を進めながら対処しなければなりません。

Q3. Web/インターネットにはどの程度のルールや規制が必要か?

-Web/インターネットでのコンテンツの制作に規制は必要でしょうか?

V.C.:これが非常に微妙な問題です。スパムが好きな人はいません。ウィルスもワームも、トロイの木馬も同じです。児童ポルノは世界的な非難の的です。他方で、検閲は政治的な道具として濫用されることがあります。それは民主主義の原則や表現の自由を損なう目的で使うこともできるのです。いちばん分かりやすい類比は、道路システムと飲酒運転でしょう。ほとんどの現代社会では、飲酒運転は社会的に容認されておらず、もし飲酒運転して捕まれば、それなりの結果が伴います。私たちは道路を使う自動車の製造を止めることはありませんし、道路を建設することも止めません。ただ運転者に対し「道路のルール」に違反した結果を警告するだけです。たぶんインターネットも、これと同じように対処する必要があると思います。前もって濫用を止める手立てはないかもしれませんが、違反者を捕らえたら一定の規則を適用するということを合意することはできます。

-それはなぜでしょう? ドイツでは、児童ポルノなど違法コンテンツを含むウェブサイトの使用を、政府が禁止しようとしています。この問題をどうお考えですか。また、どんな解決がありうるでしょうか。

V.C.:ここで本質的な問題は、保護され、許容されるべき「言論」をまもるということと同時に強制ということに関係しています。米国では、この権利は合衆国憲法修正第一条として明文化されています。他方で、言論がすべて許可されるわけでもありません。盗用、詐欺、児童ポルノ、マルウェアの配布などは刑事訴追されます。ほとんどの場合、インターネット・サービスプロバイダーやアプリケーション・サービスプロバイダーに取締りの役割が期待されることはありませんが、Digital Millennium Copyright Act (DMCA)は、オンラインサーバは、違法と確認されたコンテンツを撤去(除去)しなければならないと定めています。インターネットがあまりに伝播力が強く、アクセス性が高いために、サービスの運用者はしばしば不適切な情報の発見をユーザーに依存することになります。多くのアプリケーション・サービスプロバイダーやインターネット・サービスプロバイダーは、そのサービス約款の中に、不正なコンテンツを除去したり不正使用に対してサービス契約を解除する旨の条項を入れています。法律はインターネットサービスのインフラストラクチャの提供者ではなく、それを不正使用した違反者を対象としたものであるべきだ、というのが私の見方です。

Q4. Webと著作権

-Web上での著作権侵害問題についてのお考えをお聞かせください。

V.C.:問題の一部は、Webそのものがコピーによって機能しているということです。ブラウザはWebサーバのファイルをコピーし、変換して表示します。著作権は歴史的にみて、物理的形態(書籍、CD、DVD、雑誌、新聞、ビデオカセット、LPレコード等々)に収録された作品の流通を管理することによって機能してきました。国によっては、学術、報道などの用途に限り少部数の複製を「公正な使用」の範囲に含めています。バックアップ目的で個人使用のための複製が行われることも多いでしょう。デジタル情報は簡単に複製され流通しますから、伝統的な著作権上の問題が生じます。また、ベルン条約では、情報の著作者が明示的に所有者であるとされていますが、多くの著作者は、伝統的著作権が認めているよりも柔軟な仕方で、この情報を共有することを望んでいることも考慮すべきでしょう。
クリエイティブコモンズや“コピーレフト”などのアイデアは、知的所有権の著作者や保有者のオプションを拡大する試みの例です。私たちはインターネットにおける所有を考慮に入れた新しい知的所有権制度を構築する必要があると思います。既存の、というよりはインターネット時代に通用しない、時代遅れの著作権概念に対する代替案を見出すには、テクノロジストと立法府がいま少し建設的な発想をする必要があるでしょう。

-たとえば、Googleは現在、オンライン全文検索が可能になるように、何百万冊もの本をスキャンしています。伝統的な出版社は著作権の侵害だと言ってこれを好みません。これについてのあなたの立場は?

V.C.:出版社にとって、その刊行物が索引化されることで、Webのユーザーが見つけやすくなればメリットがあると思います。
すでにパブリックドメインとなった出版物に関しては議論があるとは思いませんし、現在まだ印刷され著作権で保護されているものも同様です(Googleは出版社との合意の下に、刊行物を索引化してわずかな断片を表示しています)。議論があるのは、絶版となってはいても著作権がまだ存在している場合です。こうした刊行物では正当な権利保有者を簡単に決定できない場合があります。Googleは様々な人々と協力して、こうした著作物の存在をWebのユーザーが知ることができるようにしたいと考えているのです。
これは刊行物の全文を提供するのとは異なります。索引化は人々が関心を持つ出版物を探し出す手助けをするもので、その結果必要ならば書店で購入したり、付属の図書館、公共図書館を探し、あるいは友人から借りたりすることになります。こうした出版物へのアクセス性を高める方法について何らかの合意ができれば、そのコンテンツに関心のあるすべての人にとって利益をもたらすでしょう。私の認識では、ほとんどの議論の中心的テーマは、受け容れられる制度の問題だと思います。 

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