OMG コスタリカTCレポート
2009年 7月 24日
OMGは6月22日からの5日間、コスタリカのサンホセで20周年記念総会とイベントを開催した。不況と豚インフルの洗礼を受けたが、アリアス大統領をはじめとした政府関係者を招いた歓迎レセプションは盛大で心温まるもの。もちろん、実質的作業にも事欠かず、懸案のBPMN 2.0を可決した(次回の理事会で正式採択)。 OMGのPTC/DTC議事録や関係者の話などをもとにしたレポートをお届けする。(鎌田博樹/オブジェクトテクノロジー研究所) ※写真はこちらに掲載しています。
1. はじめに:OMG20周年をコスタリカで!?
中米のコスタリカという国は、日本にはあまりなじみがないと思う。「非武装中立」の民主国家で「野生の楽園」として知られていても、ITには縁は少ない。 ここを記念の地としたのは、ソーリー会長のアイデアだ。彼は以前からコスタリカを気に入り、度々家族で訪れている。そしてひとつの大きな理由が、友人でもあるオスカル・アリアス・サンチェス大統領であることは間違いない。ノーベル平和賞受賞者である大統領は、長年にわたる中米紛争を平和裏に収束させた人物 として名高い。アリアス大統領と彼の政府は、今回の記念総会の開催を援助し、セレモニーでもスピーチをしていただいた。
ちなみにソーリー会長はもう一人のノーベル平和賞受賞者、フィンランドのマルッティ・アハティサーリ前大統領とも親交があるが、偉大な理念と実際的知性を 持ち、つねに温厚で交渉術にも長けた調停者的人物と、よほどウマがあうのだろう。もちろん偶然ではない。世界的な役割を果たした、小国の偉大な指導者は、 IBMやマイクロソフト、オラクルのような「大国」と、個性的な中小ベンダー、異質なニーズをぶつけるユーザー企業がせめぎ合うソフトウェアの世界で、つ ねに理性的な和解の場を提供してきたOMGとソーリー会長の姿と重なる。この20年間の功績は、ノーベル賞にも値しよう。
それはともかく、この時期にコスタリカは、もちろん参加しやすい場所ではない。ITにも波及した大不況に豚インフルの直撃もあって、参加者はいつになく少 なかった(国外旅行禁止となった企業も少なくない)。今回を流した作業グループもある。その割にはお祭りに終わらず、着実な成果を上げたのはさすがだ。な かでも数年越しの懸案だった BPMN 2.0 が採決され、理事会に送られたことは BPMにおける標準化のマイルストーンとなるものだった。中心人物の一人、コーリー・カサネイブ (Cory Cassanave=Model Driven Solutions, LLC) が、“20周年記念バースデーケーキ・カット”で見せた表情は、安堵を物語るものだった。この記事では、金曜日に行われたプレナリー(全体会議)の議事録 をもとに、コスタリカ・ミーティングのハイライトをまとめておこう。
2. プラットフォームTC
プレナリーの順序は、(1) 各タスクフォースやサブグループのからの報告、(2) RFP / RFC / RFI /ホワイトペーパーの発行、(3) サブグループの設置、(4) 標準化プロセスにおける作業の締切延長の決議、そして (5) 理事会への仕様勧告のための採決、となる。正規の「総会」といっても、通常は金曜まで残っているのは各グループの議長など、会議を成り立たせるために必要 な関係者だけ。ほとんどの参加者は木曜までに去っている。
ADTF (分析設計)
MDA Tool Component RFP 修正提案に関して採決が提案されたが、賛成少数で否決。11月9日までにさらに提案を練り直すことになった。SysML RFI の発行が可決されたが、UML RFI 発行は次回(サンアントニオ)に持ち越しとなった。次回には、Information Management Metamodel (IMM) RFP 修正提案、UMLロードマップに関するプレゼンテーション、Common Terminology Service 2 (CTS2) RFP発行、SoaML FTF 作業報告などが行われる予定。結局、今回の具体的な動きとしては、SysMLのRFIが発行されたことに尽きる。このRFIでは、オンラインでの提出 フォーマットが用意されることとなった。
MARS(ミドルウェア/関連サービス→アジェンダ参照)
このTFは、もともと CORBA 関連仕様を扱っていた、最も歴史の古いTFだが、最近はリアルタイム、DDS、テレコムなど、対象を広げている。今回は、LW FT for Distributed RT Systems (分散リアルタイムシステムのための軽量フォールトトレランス) 仕様提案を採択したが、AB (アーキテクチャボード)の通過に失敗し、修正を余儀なくされた。テレコムサービスのためのUML拡張プロファイル (TelcoML) である UML profile for Advanced and Integrated Telecom service の初期提案がIBMから提出された。これはフランステレコム、ノーテル、ドコモが支持している。
Web-Enabled DDS RFP に関するプレゼンテーションが行われた。Web-Enabled DDSは、出版-購読型ミドルウェアのDDSをWebに拡張するもの。米海軍のニーズをを背景にした提案者の直接的意図とは別に、これまで主として防衛シ ステムの世界で使われてきた DDS を、インターネットの世界に開放するステップとなるかもしれない。DDSにはすでにオープンソース製品が存在するからだ。IEF WGで は、ITS RFP のための予備的議論が行われた。なおこのWGは様々なドメインとも関連する幅広い技術を扱う。近くホワイトペーパーを発行する予定。またIBMなどが、 MARTE Profile for Multi-core systems のRFC(ファストトラックでの採択)を目ざすプレゼンテーションを行った。これは年末までにRFC発行が予定されている。
このほか、日本のIPAは、Embedded Technology Skill Standards (ETSS) Management に関連して、組込み技術者のスキル評価に使われるツールに関するプレゼンテーションを行った。これは Gov DTF (電子政府)で行ったものと同じ。
DDS SIG
Web-Enabled DDS RFPの発行のための議論が行われ、RTIとMITREが共同でプレゼンテーションを行った。Standard C++ PSM RFPは、第2次となる修正提案を次回行う予定。Extensible Topic Types for DDS RFP の修正提案も次回にリリースされる予定。その他、(とても使いにくい)現在のDDSポータルサイトの更新のための議論がなされた。Drupal を使ったものになるようだが、早く変えたほうがいい。
仕様・報告の採択(理事会への勧告)
Ruby CORBA Language Mapping FTF 報告、GIOP Compression FTF 報告、UML Profile for MARTE FTF 報告、OCL 2.1 RTF 報告、Lightweight Load Balancing FTF 報告、KDM 1.2 RTF 報告の計6本の作業報告が採択された。これを受けて、OCL 2.2 RTF、MARTE 1.1 RTFが新たに発足し、引き続き仕様のブラッシュアップの作業を行うことになった。MARTEは、1.0の仕様が確定した。仕様番号は ptc/2009-05-13 (変更指示あり)および ptc/2009-05-14 (同なし)。MARTE関係者は、この仕様 (Beta 3)の確定を重視していたので、これも一段落というところ。FTFがRTFとなって継続されるのは、とくに実装製品やモデルの相互運用性に関連して、なお 細部の詰めが残されている場合だ。MARTEは、UML本体やSysMLとも密接に関連するので、課題 (issues)もかなりになるだろう。
3. ドメインTC
BMI (ビジネスモデリング/インテグレーション)
なんといっても、Business Process Model and Notation (BPMN) 2.0仕様の採択。そのほか、Case Management RFP草案、Common Terminology Service (CTS) RFP草案、Management of Regulation and Compliance RFP草案に関するプレゼンテーションと議論、Decision ModelingについてのRFPの必要性、W3Cの Rule Interchange Format (RIF)に関する議論が行われた。
ビジネスアーキテクチャWG
Business Architecture Ecosystem White Paperについてレビューし、エコシステムにアセット、セキュリティ、コンピテンシーのコンセプトを追加すること、またビジネスアーキテクチャに関連す る標準についての言及を追加することを決めた。またValue Delivery Metamodel、BMM、OSMとの関連について議論された。ビジネスモデルの相互運用で最大の問題は、モデル間で異なる(可能性がある)用語の意味 をどう扱うかだが、これは非常に根が深い。しかし、BPMN 2.0がビジネスプロセスのメタモデルを定義した以上、語彙の問題を解決しないと、ユーザーのアプリケーション構築で問題が出てきてしまう。ドン・チェイ ピン (Donald Chapin) は、“BAWG Vocabulary”を目ざすことを提案したが、とりあえずBAWGでは、Role、Capability、Competency、Project、 Architectureの5件について検討することを決めた。
Regulatory Compliance (法令遵守) DSIG
BMI DTF に対し、Management of regulation and Compliance (MRC) RFP 草案のプレゼンテーションを行い、ABからコメントを得た。これを反映した再提案は次回に予定されている。Risk Management のホワイトペーパーに関する作業が進行しており、草案は RC のWikiページで見ることができる。性格上、RCはOMGの外にある様々な団体と協調しているが、それには W3C Rule Interchange Format (RIF) WG、EU Ontoruleプロジェクト、BR Forum/RuleMLなどが含まれる。次回のミーティングでは、Automation of compliance、UML Profile for RCのRFP 作成が議論される。
Government (電子政府) DTF
このグループは、各国の政府が採用する標準をOMGの技術体系(MDA)の中に位置づける作業を行っており、他とはやや性格を異にする。もともと は、電子政府関連のオープン標準を推進する米国連邦政府が、EAやデータ管理の標準をOMGに持ち込んだところから始まっている。RFPは少なくとも1ヵ 国の政府が(直接・間接に)関与しており、製品調達のオープン性を保証している。議長は、かつて製造業関連のTF (現在のManTIS) の議長として 生産システム関連の標準化に貢献してきたラリー・ジョンソン。
GovDTF は当然ながら米国政府のリクエストによるテーマが多いが、日本の IPA のETSSチームが、Skills Management RFPを提案し、新風を吹き込んでいる。次回には採択される予定で、その後本格的な作業になるが、今回は組込み技術におけるスキル管理のプレゼンテーショ ンが行われた。GovDTF は、通常の標準化作業の過程で必要となる膨大な説明(と根回し)はかなり省略される反面、日本から離れても「スキル管理標準」としての普遍性を主張し、普 及力を持つかどうかは保証の限りではない。様々な世界でスキル標準が存在するので、それらを包容できるメタモデルと相互運用メカニズムの抽象度が問われる からだ。したがって、後々を考えると、組込み/リアルタイム関連、製造業関連、ビジネスモデリングのサブグループ関係者への啓発は非常に重要となる。
そのほかGovDTFの活動としては、Metamodel for Federal Segment Architecture、Records Management V2 RFPなどがある。
System Engineering DSIG
SE DSIG は、SysMLを成功させたグループで、多くのメンバーが システム工学者の団体である INCOSE と関係し、さらに同じくUMLのリアルタイム拡張プロファイルであるMARTE の作業グループと重複している。今回は、SysML 2 につながる可能性がある SysML RFI の発行が決議されたほか、INCOSE と共同でシステムモデリングに関する資格試験を開発することで合意したことが紹介された。
SysMLは、システムモデリングに関する扇の要のような性格を持っており、MARTEをはじめ、OMG以外の多様なモデリングの世界へつながる。サンホ セで主として議論されたのは、物理的システムモデルのシミュレーションのための標準である Open Modelica とのマッピング、そしてSysMLと縁が深い STEP AP233 とのマッピングなど、非UML系モデル(ツール)との交換などである。また、オブジェクト指向のシステムエンジニアリング方法論である OOSEM のプロセスを Eclipse Process Frameworkに統合する技術も紹介された。システム工学におけるプロセスのメタモデルも次のテーマとなるかもしれない。
Healthcare (医療) DTF
Common Terminology Service II、HL7 Organizational Requirements List、Human Services Directory RFP などに関して議論された。CTSは、上述したBAWGと同じく、語彙の問題で、これはほとんどのドメインに共通する。医療では言葉の意味は人命に関わる問 題だが、標準は1個以上存在し、システムやモデルの統合の障害となっている。CTSでは賢明にも AD (分析設計)TFと協力して、ドメインに依存しない部分と同時に考える方針を選択した。CTS IIは次回にRFPが発行される予定。
Robotics (ロボット工学) DTF
このグループは、バイオなどと並んで、日本からの貢献の大きいドメインで、日本の(独)産業技術総合研究所の神徳氏が議長を務めている。今回は、東 芝の土井美和子氏が、ライフサイクルサポートサービスに関するプレゼンテーションを行った。今後、ロボットDTFは、User Identification Service RFPをレビューするほか、Robot Technology Component (RTC) Container に関するRFPの可能性を検討する。
C4I DTF
OMGのドメイン作業グループの中では最も古い部類に属する。防衛システム、危機管理対応システムを専門的に扱う。今回のミーティングでは目立った 動きはなかった。進行中の作業では、SOPES IEDM(作戦画面共有のための標準)が次回での投票を目指している。またMETOC、Naval METOC System Interface、Naval Navigation System Interface (NNSI)、TACSIT Controllerに関する作業が進行している。
仕様・報告書の採択
冒頭で紹介したように、今回 BPMN 2.0の採択が勧告され、同時にFTCの設置が可決された。またProduction Rule Representation (PRR) 1.1 RTF、UML Profile for DoDAF/MoDAF (UPDM) 1.1RTF、2nd EXPRESS Metamodel FTF の設置を決めた。 (以上、鎌田博樹)













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